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【おすすめ本:書評】 アーロン収容所  西欧ヒューマニズムの限界

著者:会田雄次
出版社:中公新書(2018/1/22)
価格:858円

POINT:
イギリスの女兵士はなぜ日本軍捕虜の面前で全裸のまま平気でいられるのか、彼らはなぜ捕虜に家畜同様の食物を与えて平然としていられるのか。ビルマ英軍収容所に強制労働の日々を送った歴史家の鋭利な筆はたえず読者を驚かせ、微苦笑させながら、西欧という怪物の正体を暴露してゆく。

最初にこの本を目にしたのは、書店の本棚でした。
平積みでもない、本棚に収まった「アーロン収容所」というタイトルがなんとなく気になって購入しました。
大学院にあってインド哲学を学んでいたわたしには、やはり、西欧に対するコンプレックスがあった。
そのコンプレックスを見事に吹き飛ばしてくれた名著である。
(宗教評論家:ひろさちや)

終戦後1年9ヶ月をビルマの収容所で過ごした著者の回顧録で、書かれたのは1962年、既に改定は90版を超えており長く読みつづけられてきた本です。

この本は、日本ではあまり知られていない、ビルマで捕虜になった者の体験をできるだけ生の姿で多くの方々に伝えることが当然の義務であるとの思いから、主に捕虜生活がどのような悲惨なものだったのか、捕虜当時に著者がトイレットペーパー等に書き残した日記等を編集したものです

ビルマで英軍に捕虜となったものの実状は、ほとんど日本には知られていない。ソ連に抑留された人びとのすさまじいばかりの苦痛は、新聞をはじめ、あらゆるマスコミの手を通じて多くの人びとに知られている。私たちの捕虜生活は、ソ連におけるように捕虜になってからおびただしい犠牲者を出したわけでもなく、大半は無事に労役を終わって帰還している。だから、多分あたりまえの捕虜生活を送ったとして注目をひかなかったためもあろう。

一般的に知られているシベリア抑留のような凄惨な扱いは出てこないものの、筆者は人間として扱ってもらえないことに、別の意味で残虐さを感じています。

とにかく英軍は、なぐったり蹴ったりはあまりしないし、殺すにも滅多切りというような、いわゆる「残虐行為」はほとんどしなかったようだ。しかし、それではヒューマニズムと合理主義に貫かれた態度で私たちに臨んだであろうか。そうではない。そうではないどころか、小児病的な復讐欲でなされた行為さえ私たちに加えられた。
 しかし、そういう行為でも、つねに表面ははなはだ合理的であり、非難に対してはうまく言い抜けできるようになっていた。しかも、英軍はあくまで冷静で、「逆上」することなく冷酷に落ち着き払ってそれをおこなったのである。ある見方からすれば、かれらは、たしかに残虐ではない。しかし視点を変えれば、これこそ、人間が人間に対してなしうるもっとも残虐な行為ではなかろうか。

『アーロン収容所』は名著として、今もしばしば引用される本ですが、よく引用されるのは、英軍の女兵舎を掃除する場面でしょう。
植民地人や有色人は明らかに「人間」ではなく、家畜に等しいものだから人間に対するような感情を持つ必要はないのだという、人間として扱ってもらえない残虐さが表れているのです。

東洋人に対するかれらの絶対的な優越感は、まったく自然なもので、努力しているものではない。
女兵士が私たちをつかうとき、足やあごで指図するのも、タバコをあたえるのに床に投げるのも、まったく自然な、本当に空気を吸うようななだらかなやり方なのである。

「その日、私は部屋に入り掃除をしようとしておどろいた。一人の女が全裸で鏡の前に立って髪をすいていたからである。ドアの音にうしろをふりむいたが、日本兵であることを知るとそのまま何事もなかったようにまた髪をくしけずりはじめた。
部屋には二、三の女がいて、寝台に横になりながら『ライフ』か何かを読んでいる。なんの変化もおこらない、私はそのまま部屋を掃除し、床をふいた。裸の女は髪をすき終わると下着をつけ、そのまま寝台に横になってタバコを吸いはじめた」

「入ってきたのがもし白人だったら、女たちはかなきり声をあげ大変な騒ぎになったことと思われる。
しかし日本人だったので、彼女たちはまったくその存在を無視していたのである」・・・
「彼女たちからすれば、植民地人や有色人はあきらかに人間ではなかったのである。それは家畜にひとしいものだから、それに対し人間に対するような間隔を持つ必要なないのだ、そうとしか思えない」

日本人の特性である手先の器用さと、ずる賢さと、長い物には巻かれる卑屈さを発揮して、日本人捕虜の多くは、ビルマでの捕虜生活を生き抜いてきた話しが紹介されています。
印象的なのは、厳しい環境の中で生き延びるための、盗みなどをも含むさまざまな活動です。
捕虜収容所で生きていく中で、著者は人間の才能に関して次のように述べています。

人間の才能にはいろいろな型があるのだろう。その才能を発揮させる条件はまた種々あるのだろう。ところが、現在のわれわれの社会が、発掘し、発揮させる才能は、ごく限られたものにすぎないのではなかろうか。
多くの人は、才能があっても、それを発揮できる機会を持ち得ず、才能を埋もれさせたまま死んでゆくのであろう。人間の価値など、その人がその時代に適応的だったかどうかだけにすぎないのではないか。

戦争捕虜の生活に関しては、やはりシベリア抑留が有名で、捕虜の凄惨さを語るうえでシベリア抑留者の手記を外すことはできません。しかし、この本は、捕虜生活イコールシベリア抑留というステレオタイプを無くすためにも一読したい本だと思います。


参考

第1章 強制労働の日々
第2章 泥棒の世界
第3章 捕虜の見た英軍
第4章 日本軍捕虜とビルマ人
第5章 日本軍捕虜とビルマ人
第6章 戦場と収容所
第7章 帰還

著者:会田雄次
1916年京都府生まれ。京都帝国大学史学科卒業。神戸大学助教授、京都大学人文科学研究所教授を経て、京都大学名誉教授。
43年に応召。最下級の兵士としてビルマ戦線に送られ、戦後2年間、英軍捕虜としてヤンゴンに拘留される。このときの体験をもとに『アーロン収容所』を発表。つづいて発表した『ヨーロッパ・ヒューマニズムの限界』『日本人の意識構造』(講談社)などで、論壇における地位を確立した。その後、日本のルネサンスともいうべき戦国時代を中心に日本人を論じる「史論」の領域にもあたらしい視点を導入。歴史上の人物を語りながら現代人の生き方を模索する、人間学としての歴史論を確立して歴史ブームの一翼をになった。
1997年京都市内の病院で肺炎のため死去。享年81。

 

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