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【おすすめ本:書評】 生物と無生物のあいだ

著者:福岡伸一
出版社:講談社(2007/05/20)
価格:968円

POINT:
「生命とは何か」という生命科学最大の問いに、歴史の闇に沈んだ天才科学者たちの思考を紹介しながら、現在形の生命観を探る。ページをめくる手が止まらない極上の科学ミステリー!

最初にこの本を目にしたのは、新聞の広告欄でした。
新書大賞とサントリー学芸賞をダブル受賞!ということで推薦する文書も気になりました。
福岡伸一さんほど生物のことを熟知し、文章がうまい人は希有である。サイエンスと詩的な感性の幸福な結びつきが、生命の奇跡を照らし出す。  (茂木健一郎氏)

優れた科学者の書いたものは、昔から、凡百の文学者の書いたものより、遥かに、人間的叡智に満ちたものだった。つまり、文学だった。そのことを、ぼくは、あらためて確認させられたのだった。  (高橋源一郎氏)

世界中の研究者たちが何年もかけて議論を繰り返しても「生物とは何なのか」という問題に対する明確な答えが出せずにいるのです。
この問題を極めて難解なものにしている存在の一つが「ウイルス」です。

ウイルスは、生物と無生物のあいだをたゆたう何者かである。もし生命を「自己複製するもの」と定義するなら、ウイルスはまぎれもなく生命体である。ウイルスが細胞に取りついてそのシステムを乗っ取り、自らを増やす様相は、さながら寄生虫とまったくかわるところがない。しかしウイルス粒子単体を眺めれば、それは無機的で、硬質の機械的オブジェクトにすぎず、そこには生命の律動はない。

生物の定義として、現在一般的なものは、「自己複製」の能力です。しかし、筆者はそれだけでは不十分で、生物には「動的平衡」と言う大きな特徴があり、これもまた重要だと主張しています。

肉体というもについて、私たちは自らの感覚として、外界と隔てられた個物としての実体があるように感じている。しかし、分子のレベルではその実感はまったく担保されていない。
私たち生命体は、たまたまそこに密度か高まっている分子のゆるい「淀み」でしかない。しかも、それは高速で入れ替わっている。
この流れ自体が「生きている」ということであり、常に分子を外部から与えないと、出ていく分子との収支が合わなくなる。

皆さんも一度は聞いたことがある「エントロピー増大の法則」は、簡単に言うと「自然は常に、エントロピーが大きくなる方向に進む。すわなち、自然は『秩序から無秩序へ』という方向に進む」ということですが、当然、生命体にもあてはまります。

エントロピー増大の法則に抗う唯一の方法は、システムの耐久性と構造を強化することではなく、むしろその仕組み自体を流れの中に置くことなのである。
つまり流れこそが、生物の内部に必然的に発生するエントロピーを排出する機能を担っていることになるのだ。
・・・・

生命とは動的平衡にある流れである。

筆者は時間にも言及して機械と生物の違いを次のように表現している。

機械には時間がない。
原理的にはどの部分からでも作ることができ、完成した後からでも部品を抜き取ったり、交換することができる。そこには二度とやり直すことのできない一回性というものがない。
・・・
生物には時間がある。
その内部には常に不可逆的な時間の流れがあり、その流れに沿って折りたたまれ、一度、折りたたんだら二度と解くことのないものとして生物はある。

この本は科学系の内容にも関わらず、詩的な表現、情緒あふれる文章と難解と思われる内容でも具体的な話が例示されているので抵抗なく読めます。

知的興味を満足させてくれるので、時間のある方にお勧めできる1冊です。


参考

第1章 ヨークアベニュー、66丁目、ニューヨーク
第2章 アンサング・ヒーロー
第3章 フォー・レター・ワード
第4章 シャルガフのパズル
第5章 サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ
第6章 ダークサイド・オブ・DNA
第7章 チャンスは、準備された心に降り立つ
第8章 原子が秩序を生み出すとき
第9章 動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)とは何か
第10章 タンパク質のかすかな口づけ
第11章 内部の内部は外部である
第12章 細胞膜のダイナミズム
第13章 膜にかたちを与えるもの
第14章 数・タイミング・ノックアウト
第15章 時間という名の解けない折り紙

著者:福岡伸一
生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。

 

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