2020年は東京オリンピックの年です。 世界中の人々が来日し、幸せな気持ちで帰国できることを願っています!

【おすすめ本:書評】 あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅

著者:城戸久枝
出版社:新潮文庫(2018/7/28)
価格:979円

POINT:
日本と中国の国交が断絶していた文化大革命のさなか、中国から奇跡の帰国を果たした父。2つの国の間で翻弄された父は、どんな時代を生き抜いてきたのか。戦争のもたらす残酷な運命と、歴史の真実を鮮やかに描き出した傑作ノンフィクション。

最初にこの本を目にしたのは、書店の本棚でした。
ノンフィクション3冠という帯が気になって購入しました。

大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞、黒田清JCJ新人賞を受賞し、更に、NHKの土曜ドラマ『遥かなる絆』(2009年4月から全6回)というタイトルで放送された本です。

本書は二部構成になっています。
第一部は、著者の父、城戸幹が、満州で戦禍のために家族と離ればなれになり、幼くして中国人に引きとられる場面から始まります。この幼少期は涙無くしては読めないのですが、その中でも「孫玉福」としてたくましく育っていきます。その後、毛沢東の大躍進から文化大革命にかけての異常な混乱期に異郷を生きぬいた父、城戸幹の人生を、その子がたどっていくという内容です。

第二部では著者は留学生となって中国にわたり、ふたたび父の現地での半生を現地での実体験と調査によってひとつずつ浮かびあがらせ、同時に、帰国後の父が直面した異国(日本)での困難な再出発にも迫っていきます。
さらに、中国からすれば「凶悪な」満州国軍の将校であった、祖父の人生にも言及し、著者・父・祖父と三代の人生が重ねあわせられることで、作品に時代の深みが感じられます。

幼くして引き取られ孫玉福と名付けられた城戸さんは、日本人であるがゆえに罵られるなど、国籍の葛藤を胸のうちに抱えながらも、親孝行で高校まで奨学金を得て進学していきます。
文化大革命の最中の大学受験においても、中国最高峰である北京大学の合格も堅いと言われていました。しかし、玉福は受験申し込み書の民族の欄に「日本」と書いたため、不合格になってしまうのです。

しかし、この挫折をきっかけに、玉福は日本に帰りたいという望郷の念が突然現れ、日に日に思いが強くなっていくのです。。

毛沢東の大躍進から文化大革命にかけての異常な混乱期に、「日本人」として公安から四六時中、監視されるようになります。
いつ文革のつるし上げの対象になるか分からない、労働改造所に送られ殺されてしまうかもしれないという恐怖におびえる日々を過ごしながら、彼はひたすら日本へ向けて手紙を書き始めます。
日中間の国交がない時期ですから、届くかどうかもわかない手紙を粘り強く8年間も出し続けるのですが、手紙を出してから8年後、日本の厚生省からついに返信が届きます。
実際に帰るまでには、さらに2年待たなくてはならかったのですが、残留孤児帰還事業の始まる前に、個人として日本への帰国を果たすのです。
帰る際も、育ての親や親友などとの別れは、涙なしでは読めません。

駅のホームで列車を待つ間、淑琴は玉福の手を握りしめて泣いた。
そしてホームに列車が入ってきたとき、淑琴は腰が抜けて崩れ落ちるように座り込んだ。
悲しみのあまりから体中の力が抜けて立つことができない淑琴の体を、玉福は必至で支えた。
母さん、母さん、僕の母さん、僕はこんなに母さんを悲しませているのか ― 細い淑琴の体を抱きかかえながら、玉福の胸の中には二十数年ともに過ごした日々のことが次々に浮かび、涙をこらえることはできなかった。

こうして28歳で祖国である日本に戻った城戸幹が、日本語を一から学びはじめ、苦難を乗り越え日本社会になじんでいき、やがて新しい家族に恵まれ、実母を荼毘にふすまでの人生を描いて、第一部は終わります。
私は、正直に言って第一部だけでも十分に読みごたえがあると思いました。第二部以降は惰性で読んだような気がします。

文化大革命真っ只中の中国で、日本人であるということがいかに過酷で、彼の人生を変えたのか、その間に経験したいくつもの困難、そして、日本にいるはずの家族を探し出し日本に帰るのだという執念こそがこの物語の中心であり、まだ、「中国残留孤児」という名がなかった頃に、たった一人の行動が帰国を実現させるという奇跡とも呼べる真実の物語だと思います。

是非とも、読んでほしい1冊です。


参考

プロローグ――ロング・アンド・ワインディングロード
第一部――家族への道 [父の時代]
第一章 遠い記憶
第二章 失意の底から
第三章 心、震わせて
第四章 幾つもの絆
インターミッション
第二部――戦後の果て [私の時代]
第五章 父の生きた証
第六章 傷だらけの世界
第七章 歴史を生きる者たち
第八章 満州国軍と祖父
第九章 運命の牡丹江
エピローグ――精神のリレー

著者:城戸久枝
1976(昭和51)年、愛媛県生れ。徳島大学総合科学部卒業。大学在学中の1997(平成9)年から二年間、中国吉林省長春市の吉林大学に国費留学。貿易会社、出版社勤務を経て、ノンフィクションライターに。国交回復前の中国から1970年に自力で日本に帰国した元戦争孤児の父の足跡を追った『あの戦争から遠く離れて』で、大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞、黒田清JCJ新人賞を受賞。同書は、「遥かなる絆」のタイトルで2009年にNHKでテレビドラマ化された。他の著書に、『祖国の選択』『長春発ビエンチャン行 青春各駅停車』『黒島の女たち』がある

 

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